Chet Baker Sings
Chet Baker
チェット・ベイカーの「チェット・ベイカー・シングス」は、ジャズファンだけでなく、お洒落な音楽に敏感な女性たちにも人気のボーカル入りジャズアルバムです。
チェット・ベイカーの甘く中性的な歌声が、今もなお多くの女性を虜にしています。虜にしている現場を見たことはないけど。
硬派なアナタは「ふんっ、そんな女性ウケのいいヤワな音楽はごめんだね。なめてもらっちゃ困る。俺が聴きたいのはもっと汗臭くて硬派なジャズなんだ。だいたいジャズに歌声なんていらんやろ」と思うかもしれない。それもひとつの見識です。
しかしジャズにはいろんな顔があり、チェット・ベイカー・シングスのように甘くせつない面もまたジャズなのだ。
しかもジャズ初心者の入門盤としても強くお勧めできる、キャッチーな聴きやすさを伴った本物のジャズなのです。
チェット・ベイカーはボーカリストでもあり、希代のトランペッターでもあります。決してテクニカルではないが、音数を極限までそぎ落とし、ビブラートを使用しないまっすぐでシンプルな奏法が彼の持ち味。
こうして書くと、帝王マイルス・デイビスと方向性が同じであることに気付く。彼はきっと、マイルスに憧れていたんでしょう。
しかし甘いルックスで女性から絶大な人気を誇るチェットのことをマイルスは軽蔑し、厳しい態度で接します。
その時のチェットの苦しみは、彼のジャズ人生を描いた映画「ブルーに生まれついて」を観るとよくわかります。
チェット・ベイカーのことが気になった方は、ぜひ映画もご覧ください。良い映画です。
主演のイーサン・ホークの刹那的な演技がすばらしい。観終わったあとはちょっと哀しい気持ちになるけれど。
さて、アルバムの話に戻りましょう。
このアルバムでチェット・ベイカーは、歌とトランペットを交互に披露する。つまり歌を歌ったあと、間奏としてトランペットも吹くんです。
そのトランペットの丸みを帯びた音色と素朴なフレージングは、何度聴いても聞き飽きない。
そしてもう一人、このアルバムで重要な役割を担っているのが、ピアノのラス・フリーマンです。チェットの歌声にそっと寄り添うやさしいタッチのピアノが、このアルバムを一段上のレベルに押し上げています。
晴れわたる青空の下、さわやかな風に吹かれているような気持ちになれる「That Old Feeling」。海に沈む夕日を眺めながら、昔のことを思い出しているような「I’ve Never Been in Love Before」など、聴きどころは満載。
このレコードを再生すると、部屋の中の空気がさっと変わります。
CHET BAKER SINGS GXF-3131(M)
- Chet Baker(Vo&tp)
- Russ Freeman(p)
- James Bond(b)
- Peter Littman(ds)