My Favorite Things
John Coltrane
1曲目のマイ・フェイバリット・シングスのメロディーは、おそらく一度は聴いたことがあると思います。
ジャズ初心者にとってこの「聴いたことのあるメロディ」というのは、非常に大きな助けになります。ぼくも最初、コルトレーンの吹くテーマを聴いたとき、「あ、なんかこれ聴いたことあるな」と思い、そこから展開される演奏のかっこよさにシビれました。
初心者のころはグーグルで 「ジャズ 初心者 名盤 おすすめ」 などと検索をして、目についたものをYouTubeで片っ端から聴き、ピンときたものを繰り返し聴く、というスタイルでジャズに慣れていきました。
けど、なかなかピンと来ないんですよね、初心者時代って。
ジャズのことを何もわかってないくせに、テーマだけをさらっと聴いて、「うーん、なんか違うんだよなあ」と言いながら、検索を繰り返す。
しかし、マイ・フェイバリット・シングスを聴いたときは、すぐに「これや!」と思いました。「これを求めていたんや!」と。
コルトレーンは最初のテーマを吹き終えると、あっさりと奥に引っ込んでしまい、そのあとはマッコイ・タイナーのピアノソロが延々と続きます。
しつこいぐらい同じフレーズが繰り返されるんですけど、なぜか飽きない、とてもきれいなピアノです。なんで飽きないのか、不思議です。エルヴィン・ジョーンズの刻むハイハットの音が心地いいせいかな。
マッコイさんの長いピアノソロが終わると、大将ジョン・コルトレーンが「ぷおー」とテーマを吹きながら帰ってきます。いやあ、かっこいいですねえ。
コルトレーンのソロには魔力が含まれています。まさに、考えるな、感じろ、です。
エルヴィン・ジョーンズのドラムに耳をすませるとよくわかりますが、彼はソロを取っている人の演奏をよーく聴きながら叩いていますね。ただのテクニカル野生児ではないのです。ああみえて、繊細な男なのです。
やがてまたテーマに戻り、みんなでゴールインです。
タイトルトラック以外も名曲・名演揃いです。2曲目の「Everytime We Say Goodbye」はとても美しいバラードで、シンプルに心をこめて吹くコルトレーンも、マッコイのピアノもいいですね。
そしてぼくは、4曲目の「But Not for Me」も好きなんです。
この曲が流れはじめると、これまでのずしりとした重いムードが一変、明るくてカラッとした雰囲気に変わります。ジミー・ギャリソンのウォーキングベースに乗って、みんなが心地よくドライブします。
コルトレーンはソロの途中からギアを入れて、得意のシーツ・オブ・サウンド(音を敷き詰める奏法)でかっこいいソロを聴かせてくれます。
このアルバムを語るとき、マイ・フェイバリット・シングスのことしか語られませんけど、こういう隠れ名曲もちゃんと楽しまないといけません。
そういえば、YouTubeに昔タモリさんがやっていたジャズ番組があがっていますが、そこでコルトレーンの「マイ・フェイバリット・シングス」の映像を流していました。
そこでタモリさんは、コルトレーンのことを「嫌いだ」と語っています。でも本当に嫌っているわけではないと思います。コルトレーンの別のアルバムを、自身が選ぶジャズ名盤ベスト20に入れていましたから。
My Favorite Things SD1361
- John Coltrane(ss&ts)
- McCoy Tyner(p)
- Jimmy Garrison(b)
- Elvin Jones(ds)