2019年の今、レコードブームは続いているらしく、アメリカでは遂にレコードがCDの売上を超えたそうです。
だってレコード、良いもんね。CDが登場したとき「デジタルサイコー!」と叫びながら魂を売ったぼくたちは、今頃になって「あれ?デジタルって実はサイコーじゃないな」ということに気づいてしまった。
CDのクリアな音質を、音がいいと勘違いしてきたけど、実はレコードのほうが音がいいということに、ぼくたちは気づいてしまったのだ。あーなんてこった。
レコードは重くて美しい
レコードは思った以上に重くてでかい。モノとしての存在感がCDとはまるで違います。
いざレコード屋へ行って、エサ箱にならんだレコードを恐る恐る手にとってみると、妙に緊張します、最初のうちは。ずっしりおもくて、でかくて、トーシロがうかつに手を出してはいけないような、そんなミステリアスな雰囲気をただよわせています。
そして盤面は黒く、ピカピカしていて、音を刻みこんだ無数の溝が、とてもキレイです。この溝を針でこすると音がでる、その不思議さもまた魅力です。
うん、ホレボレしますね。
ぼくは40歳になってはじめてレコードを買って帰った日、黒くてきれいな盤面を飽きることなくずっと眺めていました。
その時まだ、レコードを聴く機材をもっていなかったんです。だから眺めるしかなかったんだけど、その時は眺めているだけで幸福でした。
レコードは音が良い
そう、レコードは音がいい。CDよりも音がいいのです。
CDの音はきれいだけど、平坦で奥行きがない。レコードの音はあたたかく、録音した時代の「空気感」も感じられます。もしかしたらあの溝のなかに「その時代の空気」も一緒に刻みこまれているのかもしれない。
CDでは人間の耳には聴こえない周波数がばっさりカットされていますが、レコードはカットされていません。レコードには人間が聴こえないはずの周波数も含まれていて、実はそれこそが「レコードの音は耳に心地いい」とされる秘密だったのです。
そしてレコードは、古ければ古いほど音がいいという、なんともマニアの心をくすぐる性格をもっています。モダンジャズのオリジナル盤が高値で取引されるのは、音がいいからです。名盤を、名演奏を、一番いい音で聴きたいから、マニアは60年も前につくられたレコードを、ウン10万円も出して買い求めます。
ぼくもジャズのオリジナル盤を何枚か持っているけど、音の鮮度がほかとはまったくちがいます。とても生々しい音がする。しかし人によっては(またはアルバムによっては)「オリジナル盤よりも、再発盤の音のほうが好き」というケースもあるから、レコードは奥が深い!
レコードはジャケットがかっこいい
レコードのジャケットは大きいからカッコいい。これ本当です。
ぼくもはじめは「大きさとカッコよさは関係なかろうもん」と思っていました。ところがね、関係あったんです。CDサイズだとなんとも思わないジャケットでも、レコードサイズで見ると驚くほど格好いいんです。
部屋にレコードジャケットを並べた時の満足感は、CDとは比べものにならない。レコードジャケットをディスプレイすると、ばっちりキマります。
CDが登場して、やがてダウンロードされるデータになって、音楽とアートが切り離されてしまった。音楽がただの消耗品になってしまった。それはなかなか哀しいことです。
大きなジャケットを手にもって、アートワークを楽しみながら、音楽を嗜好品として鑑賞する。大人だったら、そんな風に音楽を聴こうじゃありませんか。
レコードは面倒くさい、だけどそれがいい
レコード盤をプレイヤーにセットして、ホコリを取って、盤を回して、針をそーっとおろす。A面を聴き終えたら、よっこらしょっと立ち上がり、レコード盤をひっくり返して、またさっきの繰り返し。それはまあいちいち面倒くさい。
でも、その面倒くささが良いんです。音楽を聴いている実感がある。ボタンひとつのデジタルにはない、体験がある。
レコードは探すのが楽しい
いつでもどこでも手に入るデジタル配信音楽と違い、聴きたいレコードを手に入れるためには苦労が必用です。
わざわざせまくてカビ臭いレコード屋へと足を運び、棚に並んだレコードを一枚一枚めくって、地道にお目当てのレコードを探さなければいけない。もちろん、欲しいレコードは、そんなに簡単には見つからない。
ビル・エヴァンスの「ワルツ・フォー・デビイ」なんて、超がつくほどの有名盤だから、ぼくはてっきりいつでも手に入るだろうと思っていました。ところがどのレコード屋でも出会えず、3年かかってやっと見つけることができました。その時の感動は、言わずもがなです。
あ、もちろんネットオークションを使えばすぐに買えたんですけど、ぼくはあえて「レコードはレコード屋へ行って買う」というルールを、自分に課しているんです。そのほうが楽しいでしょ。
レコード屋でレコードをぱたぱたとめくっていると、ずっと探していたあのジャケットが目に飛び込んくる。その時の高揚感。それはネットでは決して味わうことができないし、本来買い物ってそういうものだと思います。
レコードとの出会いは一期一会。運良く手に入れたレコードは、宝物になるんだ。