名盤といわれるジャズアルバムの中には、どう考えても初心者向きじゃないアルバムが存在します。 「名盤=わかりやすい」と思ったら大間違い。初心者がうっかり聴いてしまってジャズを嫌いにならないように、初心者が聴いてはいけない名盤をご紹介します。
マイルス・デイビス「カインド・オブ・ブルー」
これは初心者が聴いてはいけないジャズ名盤の筆頭です。不幸にもこのアルバムから入門してしまった人は、きっとジャズが苦手になります。かつてのぼくがそうだったように。
カインド・オブ・ブルーは、世界で一番売れているジャズアルバムで、間違いなく名盤です。だから初心者向けのウェブサイトでもよく紹介されます。だけど、こんな重厚な音楽をジャズ初心者が聴いても、良いと思えるはずがありません。
「名盤だから良いに違いない」
「良さが理解できないのは未熟な自分のせいだ」
そう言い聞かせて、がまんして聴き続けても、結局「暗くて退屈な音楽だな」としか思えない。
ジャズの良さがわかった今、このアルバムの凄さがよくわかります。本当に名演で、録音も良く、すばらしいジャズアルバムです。夜に聴くのにうってつけの名盤です。
でも初心者の方にはお勧めできません。無理して聴き続けるのはやめて、まずはもっと楽しいジャズを聴きましょう。
ジョン・コルトレーン「至上の愛」
これも名盤としてよくオススメされるアルバムです。特にロック好きの人が「コルトレーンはジャズの神様だ」と言って、強力にプッシュしてきます。
しかし、初心者は聴かないほうが賢明です。インパルスというレーベルに移籍してからのコルトレーンは、非常に難解なジャズを演っているので、初心者にはきっと良さがわからないと思います。
1曲目なんて、途中から念仏のような声が聴こえてきて「なんなんだこれは?」と引くでしょう。コルトレーンのソロもぶりぶりばりばり、まさに我が道を行っていて、リスナーのことなんてこれっぽっちも考えていません。
そこがカッコイイいいんですけどね。初心者にはキツイ。ジャズに慣れて、中級者になってから聴きましょう。
ソニー・クラーク「クール・ストラッティン」
ジャケットがお洒落で有名なアルバム。見たことがある人も多いのではないでしょうか。
しかし内容はどうだろう。決してジャズ初心者にオススメできる内容じゃないと思います。入門アルバムとしてよく紹介されるのが不思議です。
1曲目のテーマ部分、ちょっともっさりしてません?この冒頭のテーマを「都会的だ」「NYを感じさせるジャケット写真とマッチしている」とか言う人が多いですが、ぼくにはそう感じられません。まあそのへんは好みというか、個人的感覚になってしまいますが。
最後の曲「ディープ・ナイト」は、文句なしにカッコいい曲です。
ビル・エバンス「ポートレイト・イン・ジャズ」
ビル・エヴァンスは日本でも人気の高いピアニストで、ワルツ・フォー・デビイと並び、このアルバムもよく初心者向けとして紹介されます。
正真正銘の名盤だし、ぼくも好きです。しかし、初心者にはオススメできません。
ビル・エヴァンスがやっている音楽はとても難しいのに、表面上はおしゃれジャズの空気をまとっていて、知名度も人気も高いから「とりあえずビル・エヴァンスを聴いておけば間違いないだろう」と、初心者がうっかり手を出してしまうんですよね。
初心者がビル・エヴァンスを聴くなら、これではなく「ワルツ・フォー・デビイ」から聴きはじめることをおすすめします。
ソニー・ロリンズ「サキソフォン・コロッサス」
ここまで挙げたアルバム、全部「スィング・ジャーナル誌が選ぶ名盤100選」の上位にランクインしているアルバムです。
この「サキソフォン・コロッサス」もそうです。たしかランキングでは3位だったと思います。ちなみに1位は「ワルツ・フォー・デビイ」で、2位が「カインド・オブ・ブルー」です。
これはもしかしたら、初心者でもハマるかもしれない。1曲目のセント・トーマスのテーマは陽気でキャッチーです。しかしソニー・ロリンズがソロに突入した途端「バブッ、バブッ」と同じ音を繰り返すところで「ん?」と、首をかしげるかもしれない。
あれは、この先の展開を頭の中で探りながら出している「ジャブ」みたいなもので、そこから続くロリンズのアドリブソロはすごいの一言だけど、はじめのうちはなんのこっちゃよくわからないですよね。
そしてなんといっても、マックス・ローチのドラムソロが単調で退屈です。初心者は「この退屈なドラムソロもジャズの極意なんだろう、理解できないぼくが悪いのだ、がまんがまん」って考えがちですが、そんなことはありません。あれは退屈なんです。
名盤だからといって無理して聴く必要はない
初心者が聴いてはいけない名盤紹介は以上です。
評価が高いから、名盤だからといって、必ずしも聴く必要はありません。
これはどの音楽にも言えますが、好みは人それぞれです。自分にピンとくるものを、自分の心に正直に聴けばいいんです。
それがジャズを好きになるための、一番の近道ですから。