Free for All
Art Blakey & The Jazz Messengers
ジャズは決して「お洒落なラウンジBGM」ではない。
このアルバムのタイトルトラックを聴けば、そのことが一瞬でわかります。
そのへんのやわなハードロックなんかよりも遥かに激しく熱く、そしてカッコいい音楽がここにあります。
それにしてもタイトルトラック「Free for All」で聴けるアート・ブレイキーの激しすぎるドラミングはいったん何なんだろう。もしかしたら何かに対して、彼は激しく怒っていたのかもしれない。
感情の赴くまま、怒りをドラムキットに叩きつけるような演奏には圧倒されるし、ちょっとうるさすぎるんじゃないかという気もするけれど、たぶんこのうるさすぎるドラムじゃないと、Free for All のマジックは成立しないんだろうなあ。
今の時代に聴いても全く古さを感じさせない、シダー・ウォルトンのピアノイントロ。
この物悲しくも先進的なイントロで「Free for All」の運命は決まった。
そこからはじまる3管編成の怒涛の演奏。ウェイン・ショーターが吹く怪しい響きのサックスを聴くたび、ぼくの血は騒ぎ、いてもたってもいられなくなります。
自分たちがいま演奏している音楽のあまりのカッコ良さに、ドラムのアート・ブレイキーは感極まり、曲中に何度も「フウーーーッ」「イヤアーーーッ」と雄叫びをあげます。ぼくも心の中で「うおおおー」と叫びます。心の中でね。
シダー・ウォルトンのイントロのピアノ、はじめて聴いた時は驚いたなあ。
とても1964年に録音されたジャズとは思えないその洗練された響きに、あれ?再生するレコード間違えたかな?と本気で思ったもん。
2曲目「Hammer Head」は、割とベタなブルーノート的な曲だけど、シダー・ウォルトンのピアノが都会的なエッセンスを加えています。
そして3曲目「The Core」。これがまたfree for allに負けないくらいカッコいい曲なのだ。ここでもやはり、シダー・ウォルトンのピアノの響きが抜群に効いている。
シダー・ウォルトン恐るべし。
ぼくはこのアルバムを聴くまで、シダー・ウォルトンという人を特別意識したことはありませんでした。でも今は、気になるジャズピアニストの上位にランクインしています。
ちなみに村上春樹さんは「意味がなければスイングはない」の中で、シダー・ウォルトンに対する深い愛情を語っています。リーダー作は少ないけど、ミュージシャンや違いのわかるジャズファンからの評価が高い、通好みのピアニストなんですね。
小川隆夫氏のインタビューによると、リーダーのアート・ブレイキーは音楽性への関心があまりなく、この頃のジャズ・メッセンジャーズがどんな音楽をやるかは、ウェイン・ショーターがほぼ全てを決めていたらしい。
ショーターが音楽理論的なことを「ああだこうだ」と言っても、ブレイキーは「で、おれはどう叩けばいいんだ?」でおわり。それでもまじめなショーターは、毎回ブレイキーに曲について丁寧に説明したそうです。
まじめなでやさしいウェイン・ショーター。
だけど出す音は、ぶりぶりに怪しくてカッコいい。きっとモテたんじゃないでしょうか。
よく「ジャズの名盤100枚」といった企画があるけど、このアルバムがそこに名を連ねることはない。初心者にこれを勧める評論家もいない。頭の固いジャズファンは毛嫌いすらするかもしれない。
でもそんなのカンケーねえ!(by 小島よしお)。
子難しいことを抜きにして、聴いた瞬間かっこいい!と感じられるこのアルバムこそ、ジャズ初心者が聴くべきだし、ロックが好きな人にこそ聴いて頂きたいジャズアルバムです。
そう、ジャズはこんなにも激しい側面を持っているのだ。
- Art Blakey(ds)
- Freddie Hubbard(tp)
- Wayne Shorter(ts)
- Curtis Fuller(tb)
- Cedar Walton(p)
- Reggie Workman(b)